犬の白内障の症状・進行段階・手術費用を獣医師が解説【獣医師監修】
この記事のポイント
- 白内障は水晶体が白く濁る病気で、進行すると失明に至ります
- 加齢性の核硬化症とは異なり、治療・手術が必要な疾患です
- 進行段階は4期に分かれ、成熟期以降は手術が視力回復の唯一の選択肢です
- 糖尿病犬の約75%が1年以内に白内障を発症するため、糖尿病管理も重要です
「愛犬の目が白く濁ってきた」「最近物にぶつかる」。そんな変化に気づいたら白内障の可能性があります。進行を遅らせるためにも早期に眼科診療に対応した動物病院を受診しましょう。
犬の白内障とはどんな病気ですか?
白内障は、眼球内にある 水晶体(すいしょうたい) が白く濁ることで視力が低下する疾患です。水晶体はカメラのレンズに相当する部分で、光を集めて網膜に像を結びます。
病気の基礎知識
- 水晶体のタンパク質が変性して不透明になる
- 片目だけで始まり、多くは両目に進行する
- 初期は日常生活に支障が出にくい
- 完治には外科手術が必要
- 放置すると失明だけでなく眼内合併症のリスクも高まる
白内障と核硬化症はどう違うのですか?
高齢犬で目が青白く見える場合、白内障ではなく「核硬化症」のこともあります。両者は見た目が似ているため正確な鑑別が重要です。
| 項目 | 白内障 | 核硬化症 |
|---|---|---|
| 正式名称 | 水晶体混濁 | 水晶体核の加齢性変化 |
| 原因 | タンパク質変性 | 水晶体線維の圧縮 |
| 見た目 | 白〜灰白色の濁り | 青灰色・すりガラス様 |
| 視力への影響 | 進行すると失明 | ほぼ影響なし |
| 治療 | 手術が必要 | 治療不要 |
| 発症時期 | 若齢〜高齢すべて | 7歳以降 |
核硬化症は生理的な老化現象で治療の必要はありませんが、鑑別には散瞳検査や眼底検査が必要です。獣医師の診察を受けて確認しましょう。
犬の白内障の原因は何ですか?
原因は多岐にわたり、若齢でも発症することがあります。主な原因を知っておくと予防や早期発見につながります。
主な原因
- 遺伝性:プードル、アメリカンコッカースパニエル、ミニチュアシュナウザー、シーズーなどに多い
- 加齢性:6歳以降、徐々に進行
- 糖尿病性:糖尿病犬の約75%が1年以内に発症
- 外傷性:目の打撲、角膜穿孔など
- 中毒性:特定の薬物や毒物
- 栄養性:幼犬期の栄養不足
- ぶどう膜炎の続発:慢性眼炎症から
好発犬種
| 犬種 | 特徴 |
|---|---|
| トイプードル | 若齢性白内障が多い |
| ミニチュアシュナウザー | 遺伝性の報告多数 |
| アメリカンコッカースパニエル | 早期発症傾向 |
| シーズー | 加齢性 |
| ビーグル | 加齢性 |
| ボストンテリア | 若齢性 |
| 柴犬 | 加齢性 |
糖尿病の既往がある犬は特に注意が必要です。詳しくは犬の糖尿病ガイドもご覧ください。
白内障の進行段階は?
白内障は進行度によって4つの段階に分けられます。段階によって治療方針が変わります。
| 段階 | 水晶体の状態 | 視力 | 手術適応 |
|---|---|---|---|
| 初発白内障 | 水晶体の一部が濁る(混濁15%未満) | ほぼ正常 | 通常不要 |
| 未熟白内障 | 水晶体の大部分が濁る(15〜99%) | やや低下 | 最も適している |
| 成熟白内障 | 水晶体全体が完全に白濁 | 光覚のみ | 適応 |
| 過熟白内障 | 水晶体内容が液化・収縮 | 失明 | リスク高いが検討可 |
各段階の特徴
1. 初発白内障
- 飼い主が気づくことは少ない
- スリットランプ検査で発見
- 経過観察と点眼薬で進行抑制
2. 未熟白内障
- 目が白く見え始める
- 薄暗い場所で物にぶつかる
- 手術のゴールデンタイム
3. 成熟白内障
- 目全体が真っ白に見える
- 視力はほぼ失われる
- 手術は可能だが成功率やや低下
4. 過熟白内障
- 水晶体が縮み、目の中で液化
- ぶどう膜炎・緑内障の合併リスク大
- 手術リスク高い
どんな症状が出たら白内障を疑うべきですか?
白内障は進行がゆっくりなため、初期症状を見逃しやすい病気です。以下のサインがないか日常的にチェックしましょう。
症状チェックリスト
- 瞳(黒目の中心)が白く・灰色に見える
- 薄暗い場所で物にぶつかる
- 段差でつまずく、階段を怖がる
- 動くおもちゃを追わなくなった
- 名前を呼ぶと声の方を見る(姿が見えない)
- 知らない場所で不安そう
- 目を細める、まぶしがる
- 涙が多い・目やにが出る
目やにや涙については犬の目やに・涙やけも参考にしてください。
動物病院ではどのように診断しますか?
白内障の診断と進行度評価には眼科専門機器が必要です。一般診療では核硬化症との鑑別のみ行い、詳しい評価は眼科専門施設に紹介されることもあります。
主な検査
| 検査 | 目的 |
|---|---|
| 一般眼科検査 | 角膜・結膜・前房の評価 |
| 散瞳検査 | 水晶体全体の観察 |
| スリットランプ検査 | 混濁の程度・部位を詳細評価 |
| 眼底検査 | 網膜の健康状態を確認 |
| 眼圧測定 | 緑内障の合併を確認 |
| 網膜電位図(ERG) | 手術前に必須、網膜機能評価 |
| 眼球超音波検査 | 水晶体脱臼・網膜剥離の確認 |
| 血液検査 | 糖尿病など原因疾患の検索 |
ERG検査で網膜機能が正常であることを確認してから手術適応が決まります。
犬の白内障はどう治療しますか?
白内障を治す薬は現時点では存在せず、進行を遅らせる点眼薬と根治のための外科手術が治療の柱です。
1. 内科的治療(進行抑制)
- ピレノキシン点眼薬(カリーユニ):進行予防
- N-アセチルカルノシン点眼:酸化ストレス軽減
- 糖尿病管理、血糖値安定化
- 抗炎症点眼薬(ぶどう膜炎予防)
内科治療は進行を完全に止めることはできず、あくまで補助的な役割です。
2. 外科治療(超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入)
現在の標準治療は人間と同じ 超音波乳化吸引術(PHACO) です。
手術の流れ:
- 全身麻酔
- 角膜に小切開
- 超音波で水晶体を乳化・吸引
- 人工眼内レンズ(IOL)を挿入
- 切開創を縫合
手術の特徴:
- 所要時間:片目30〜60分
- 入院:1〜3日程度
- 術後視力:良好な症例で実用的視力回復
- 成功率:85〜95%(未熟白内障期の場合)
3. 手術の適応基準
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 進行度 | 未熟〜成熟 |
| 網膜機能 | ERGで正常 |
| 眼圧 | 正常範囲 |
| 全身状態 | 全身麻酔に耐えられる |
| ぶどう膜炎 | コントロール下 |
| 術後点眼 | 飼い主が実施可能 |
手術費用はどれくらいかかりますか?
白内障手術は高度な専門手技のため、費用は他の手術より高額になります。
| 項目 | 費用目安 |
|---|---|
| 術前検査一式 | 30,000〜60,000円 |
| 片目手術(眼内レンズ込) | 250,000〜400,000円 |
| 両目同時手術 | 400,000〜650,000円 |
| 入院費(1〜3日) | 10,000〜30,000円 |
| 術後点眼薬(3ヶ月分) | 15,000〜30,000円 |
| 術後再診(複数回) | 20,000〜50,000円 |
| 片目の総額目安 | 30〜50万円 |
| 両目の総額目安 | 50〜80万円 |
詳しくは犬の手術費用ガイドも参考にしてください。高額な手術のため、事前の見積もり取得とペット保険の確認は必須です。
術後のケアで気をつけることは?
手術成功のためには術後ケアが極めて重要です。飼い主の協力が不可欠です。
術後管理のポイント
- エリザベスカラー装着:2〜3週間、目をこすらせない
- 複数の点眼薬:1日4〜6回、数ヶ月継続
- 安静:運動・興奮・シャンプー禁止
- 定期再診:術後1日、7日、14日、1ヶ月、3ヶ月…
- 生涯フォロー:半年〜1年ごとの眼科検診
術後合併症のリスク
- 術後ぶどう膜炎(ほぼ必発だがコントロール可能)
- 眼圧上昇・緑内障
- 後発白内障
- 網膜剥離
- 感染症・角膜浮腫
- 眼内レンズ脱臼
合併症の早期発見のためにも、少しでも異変があればすぐに手術を受けた病院に連絡しましょう。
手術しない選択肢はありますか?
高齢・全身状態不良・経済的理由などで手術を選べない場合もあります。失明しても犬は適応力が高く、工夫次第で快適な生活が可能です。
手術しない場合のケア
- 家具の配置を変えない
- 段差にクッション材を付ける
- 名前を呼んで声かけを増やす
- 匂いでわかる目印を置く
- 散歩コースを固定する
- 抗炎症点眼で合併症予防
- 定期的な眼科チェック
シニア犬の場合の判断
高齢犬の手術は麻酔リスクと得られる視力回復のバランスで判断します。シニア犬のケアも参考に、主治医とよく相談して決めましょう。
白内障は予防できますか?
完全な予防は難しいですが、進行抑制や早期発見の工夫は可能です。
予防的なケア
- 定期的な眼科検診:年1回、6歳以降は半年に1回
- 糖尿病の早期発見・管理
- 抗酸化サプリメント(ビタミンE、ルテインなど)
- 紫外線対策:強い日差しを避ける
- 遺伝性犬種は若齢から検査
- 目の外傷を避ける
動物病院選びも重要です。眼科診療に対応した病院を選ぶことで早期発見につながります。かかりつけ動物病院の選び方もご覧ください。
まとめ:早期発見・早期手術が視力を救う
犬の白内障は進行性の失明疾患ですが、適切なタイミングでの手術により視力回復が可能です。
- 目の白濁に気づいたら早めに受診
- 核硬化症との鑑別が重要
- 未熟白内障期が手術の最適なタイミング
- 糖尿病犬は特に注意深く観察
- 手術費用は片目30〜50万円が目安
- 術後ケア・定期フォローが成功の鍵
- 高齢でも生活の質を保つ工夫は可能
白内障手術は眼科専門医・眼科診療に力を入れている動物病院で行うのが理想的です。セカンドオピニオンも含めて、最適な選択をしましょう。