犬のてんかんの症状・発作時の対応・治療費を獣医師が解説
この記事のポイント
- 犬のてんかんは**特発性(原因不明)と症候性(脳腫瘍等が原因)**の2種類
- 発作時は触らず・動画撮影・時間計測が鉄則。無理な口への手出しは危険
- **5分以上続く発作(重積発作)**は命に関わる緊急事態
- 治療は抗てんかん薬の生涯投与が基本。完治ではなく発作コントロールが目標
- 治療費は初期検査10〜20万円、月々の薬代3,000〜10,000円程度
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犬のてんかんとは:脳の電気的興奮が引き起こす病気
てんかん(epilepsy)は、脳内の神経細胞が異常に興奮することで引き起こされる発作性の疾患です。犬における発症率は**0.5〜5%**と報告されており、比較的よく見られる神経疾患です。
てんかんは「発作を繰り返す状態」を指し、一度きりの発作はてんかんとは診断されません。通常は生涯にわたる治療が必要になります。
特発性てんかんと症候性てんかんの違い
| 項目 | 特発性てんかん | 症候性てんかん |
|---|---|---|
| 原因 | 遺伝的素因(脳に異常なし) | 脳腫瘍・脳炎・外傷・水頭症など |
| 発症年齢 | 1〜5歳が多い | 若齢(1歳未満)or 高齢(6歳以上) |
| MRI所見 | 異常なし | 病変あり |
| 治療 | 抗てんかん薬 | 原因疾患の治療+抗てんかん薬 |
| 予後 | 良好(コントロール可能) | 原因による |
好発犬種
特発性てんかんは以下の犬種で遺伝的素因が報告されています。
- ボーダー・コリー
- ラブラドール・レトリーバー
- ゴールデン・レトリーバー
- ビーグル
- シェットランド・シープドッグ
- ダックスフンド
- 柴犬
- トイ・プードル
どんな症状が出る?発作の種類を知ろう
てんかん発作には大きく分けて2つのタイプがあります。
全般発作(意識を失うタイプ)
最も典型的な発作で、以下の経過をたどります。
- 前兆期(数分〜数時間):そわそわ・飼い主を探す・隠れる
- 発作期(30秒〜2分):意識消失・全身痙攣・泡を吹く・失禁
- 発作後期(数分〜数時間):ぼーっとする・ふらつく・視覚障害・過剰な食欲
部分発作(意識があるタイプ)
脳の一部のみが興奮するタイプで、症状が限局的です。
- 顔面の痙攣(目・口周辺)
- 片側の手足のけいれん
- ハエ追い行動
- 突然の恐怖・攻撃性
- よだれを大量に流す
部分発作は犬の震え・ふるえの原因と区別が難しいことがあります。
てんかん重積(緊急事態)
以下は命に関わる状態です。すぐに救急病院へ。
- 5分以上続く発作
- 24時間以内に3回以上の発作
- 発作と発作の間に意識が戻らない
重積状態は脳浮腫・高体温・横紋筋融解症を引き起こし、死亡率は20〜30%と報告されています。
発作が起きたらどうする?対応5ステップ
愛犬の発作を目の当たりにすると飼い主はパニックになりがちですが、落ち着いて正しい対応をすることが命を守ります。
ステップ1:周囲の安全確保
- 家具の角・階段から遠ざける
- 毛布やクッションでガードする
- 他のペットや子どもを離す
ステップ2:絶対に触らない・口に手を入れない
「舌を噛まないように」と口に手を入れるのは絶対NGです。犬はてんかん発作中に舌を噛むことはほとんどなく、飼い主が咬まれる事故が非常に多く報告されています。
ステップ3:時間を計測する
発作開始から終了までの時間をスマホのストップウォッチで正確に計測してください。5分を超えたら救急病院へ直行です。
ステップ4:動画を撮影する
診断上、発作の様子を動画で記録することが極めて重要です。獣医師にとって、発作の種類・部位・持続時間の把握は治療方針の決定に直結します。
ステップ5:発作後の観察とメモ
- 発作の日時・持続時間
- 発作前の行動(食事・運動・興奮)
- 発作中の症状(痙攣部位・失禁・発声)
- 発作後の回復時間
これらを「発作日記」として記録し、受診時に獣医師に見せましょう。
診断はどう進む?検査の流れ
てんかんの診断は「除外診断」が基本です。他の病気を否定した上で、特発性てんかんと診断します。
基本検査
| 検査項目 | 目的 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 血液検査(一般・生化学) | 低血糖・肝疾患の除外 | 5,000〜10,000円 |
| 尿検査 | 腎疾患の除外 | 1,500〜3,000円 |
| レントゲン | 胸腹部のスクリーニング | 5,000〜10,000円 |
| 神経学的検査 | 脳神経の評価 | 3,000〜5,000円 |
高度画像検査
特発性てんかんの確定診断や症候性の原因特定には、MRI検査が必要です。
| 検査 | 目的 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| MRI | 脳腫瘍・脳炎・水頭症の除外 | 80,000〜150,000円 |
| 脳脊髄液検査 | 脳炎の診断 | 30,000〜50,000円 |
MRIは全身麻酔下で行い、二次診療施設での実施が一般的です。
治療法は?抗てんかん薬の選択
てんかん治療の目標は完治ではなく発作頻度と重症度の軽減です。以下の基準で治療開始を判断します。
- 6ヶ月に2回以上の発作
- 重積発作が1回でもあった
- 発作後の症状が重い
- 症候性てんかんと診断された
主な抗てんかん薬の比較
| 薬剤 | 特徴 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| フェノバルビタール(フェノバール) | 第一選択薬・効果が確実 | 長年の使用実績 | 肝障害・多飲多尿 |
| 臭化カリウム(KBr) | 腎排泄・肝負担が少ない | 肝疾患犬でも使用可 | 効果発現まで数ヶ月 |
| ゾニサミド(エクセグラン) | 副作用が少ない | 肝負担が軽い | 薬価がやや高い |
| レベチラセタム(イーケプラ) | 即効性・追加薬向き | 副作用極小 | 1日3回投与必要 |
| イメピトイン | 新世代薬 | 副作用少ない | 重症例には効果弱め |
治療費の目安
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 初回検査(血液・レントゲン・神経学的) | 15,000〜30,000円 |
| MRI・脳脊髄液検査 | 100,000〜200,000円 |
| 月々の薬代(小型犬) | 3,000〜7,000円 |
| 月々の薬代(大型犬) | 5,000〜15,000円 |
| 定期血中濃度測定(3〜6ヶ月毎) | 5,000〜10,000円 |
詳細は動物病院の費用ガイドもご参照ください。
生涯治療費の試算
10歳発症の中型犬で生涯管理した場合:
- 初期検査:約20万円
- 月々の薬代+診察:約10,000円 × 12ヶ月 × 6年 = 約72万円
- 合計:約90〜120万円
犬のてんかんの余命は?予後の目安
特発性てんかんは適切に治療すれば寿命への影響は軽微です。
- 薬でコントロール良好な場合:天寿を全うできる
- 薬剤抵抗性てんかん:2〜3年短縮の可能性
- 症候性てんかん(脳腫瘍):原因疾患による
高齢犬で初めて発作が出た場合は脳腫瘍の可能性が高まるため、シニア犬のケアも併せて確認しましょう。
自宅でできるケアと注意点
発作の誘因を避ける
- 睡眠不足
- 過度な興奮・ストレス
- 急激な光の点滅
- 薬の飲み忘れ
- 発熱
投薬管理の徹底
抗てんかん薬は同じ時刻に毎日投与することが重要です。急な中断は発作重積を招くため絶対に避けてください。
発作日記をつける
スマホアプリやノートで発作記録を残しましょう。発作頻度の変化は治療効果の判定に必須です。
定期通院を欠かさない
3〜6ヶ月ごとの血中濃度測定・肝機能検査が必要です。ぐったりや元気消失があれば犬の元気がない時のチェックも参考にしてください。
いつ救急を受診すべき?
以下の症状は夜間でも即受診が必要です。
- 5分以上続く発作
- 24時間以内に3回以上の発作
- 発作間に意識が戻らない
- 発作後に立てない・呼吸が異常
- 初めての発作
初めての発作は原因不明なため、必ず動物病院で精査を受けましょう。詳しくは犬のけいれん・発作ガイドもご覧ください。
まとめ:付き合っていく病気として正しく理解を
犬のてんかんは一生付き合う病気ですが、適切な診断と投薬管理によって多くの子が普通の生活を送ることができます。発作を目撃したら焦らず、動画撮影と時間計測を行い、早めに動物病院を受診してください。
薬の飲み忘れは発作を誘発する最大の原因です。毎日の投薬を習慣化し、定期検査を欠かさないことが愛犬の命を守ります。
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